東京地方裁判所 昭和56年(ワ)521号 判決
一 請求の原因1及び2については、当事者間に争いがない。
また、請求の原因4のうち、被告製品が別紙物件目録添付図面の第1図及び第2図並びに同目録二記載のとおりのものであること、被告ビーンズが被告製品を製造販売し、被告甚兵衛が被告製品を使用して海苔巻を製造、販売したことは、当事者間に争いがない。なお、当事者間に争いのある同目録のその余の記載は被告製品の使用方法に関するものであるから、被告製品の特定のためには必要でない。
二 前記争いのない本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、次の(1)ないし(5)が本件考案の構成に欠くことのできない事項とされていることが認められる。
(1) 水分が浸透することのない素材で作られていること
(2) 海苔の幅と同等の幅を有すること
(3) 海苔の長さの二倍以上の長さを有すること
(4) 一端に袋状の折返しを設けたこと
(5) 海苔巻用帯体であること
三 右の本件考案の構成に欠くことのできないものとされている(4)の事項の意味について検討する。
1 成立に争いのない甲第一号証(本件考案に係る実用新案公報。別添実用新案公報と同じ。)によれば、本件明細書の考案の詳細な説明には、まず、本件考案の目的を明らかにした次の<1>の記載があり、次いで、この目的を達成するための具体的な実施例を説明する<2>、<3>の記載があり、最後にまとめとして本件考案の効果を説明する<4>の記載を置いていることが認められる。
<1> 「本考案は、………帯体の一端に袋状の折返し部を設けることにより該折返し部に海苔の一端を差し込み、帯体の中央部付近に御飯の塊を置いて、海苔と御飯とが直接重ならない様に一体に巻き、食べる時に一方の手の平で御飯を転がす様にしながら他方の手で帯体の外側の端部を引くと乾燥した状態の海苔によるのり巻を作ることのできる簡便なのり巻用帯体を得ることを目的としたものである。」(公報1欄二六ないし三五行)
<2> 「のり巻に使用する海苔の巾とほぼ同等の巾を有し、該海苔の長さの2倍以上(約2・5倍程度)の長さを有する帯体1を、ビニール等の様な水分が浸透しない素材により形成し、該帯体1の一端に、適宜深さで袋状の折返し部2を設けたものである。そこで第1図に示す如く、干し海苔3の一端を上記折返し部2に差し込み、帯体1の中央部付近に具を入れた御飯4の塊を置く。次に、第2図に示す如く海苔3を折返し部2で保持しながら御飯4と海苔3とが重ならない様にして帯体1を二つに折り、そして第3図に示す様に帯体1の折返し部2が内側となる様にして、海苔3と御飯4とを一体に巻く。斯様に巻いた状態では、海苔3と御飯4とは帯体1を介して一体に巻かれている為に、御飯4の水分によつて湿気るのを防止することができる為に乾燥した状態が保てる。」(同1欄三七行ないし2欄一七行)
<3> 「これをのり巻にして食べるには、………帯体1の端部を引きながら御飯4を転がす様にすると海苔3が御飯4に巻き付いて乾燥した海苔3によるのり巻ができるものである。」(同2欄二〇ないし二六行)
<4> 「以上の構成、作用を有する本考案によると、帯体を介して海苔と御飯とが巻かれている為に海苔が御飯の水分によつて湿気てしまうことがなく、その為海苔は食べる時迄乾燥した状態を保つことができると共に、帯体の端部を一方の手で引きながら他の手で御飯を転がす様に回転させるだけで簡単にのり巻を作ることができる」(同2欄二七ないし三三行)
2 以上の各記載を総合すれば、本件考案において、前記二(4)の事項が本件考案の構成に欠くことができないものとされている技術的意味は、帯体の一端、すなわち片方の端部を折り返して形成した袋状の折返し部に、海苔の一端、すなわち片方の端部を差し込み、本件明細書添付の第2図(別添実用新案公報参照)のように、海苔か中央部付近に置かれた御飯に触れないように帯体を二つに折り重ねる際に、海苔を保持することができるとともに、海苔巻を作る際には、帯体の端部を一方の手で引きながら他の手で御飯を転がすように回転させるだけで簡単に海苔を巻き付けることができるという作用効果を奏することにあると認められる。したがつて、袋状の折返し部は、海苔の片方の端部のみを差し込むことができる程度の深さを有するものであつて、海苔の全体又はほぼ全体を収納するような深さのものまでは含まないと解すべきである。なんとなれば、海苔の全体又はほぼ全体を収納するような深さのものも含まれるとなると、海苔と御飯とが重ならないように包装するために帯体の長さを海苔の長さの二倍以上とすることは必要でないことになることが明らかであるから、右1の<1>、<2>、<4>の記載により海苔と御飯とが重ならないように包装して海苔の乾燥状態を保つという作用効果を奏するための構成であると認められる前記二(3)の事項を考案の構成に欠くことができないものとした趣旨と矛盾するからであり、また、海苔の全部又はほぼ全体が袋状の折返し部に収納されていると、帯体の端部を一方の手で引きながら他方の手で御飯を転がすように回転させるだけでは海苔を巻き付けることはできないからである。以上によれば、前記二(4)の事項は、「片方の端部に海苔の片方の端部のみを差し込むことができる深さの袋状の折返しを設けたこと」を意味すると解すべきであり、本件考案は、右の点を構成要件とするものであると認められる。
四 被告製品を特定するものとして当事者間に争いのない別紙物件目録二の構成の説明の記載によれば、被告製品の袋部3は、合成樹脂フイルムの一端から約三分の一の部分を折り返して形成された約一七センチメートルの深さを有するもので、端部のみを折り返したものではなく、また、海苔のほぼ全体を収納する深さを有しているものであることが認められる。したがつて、被告製品は、本件考案の前記構成要件を充足しないものであるから、その余の点について対比検討するまでもなく、本件考案の技術的範囲に属するものとは認められない。
五 よつて、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。